フィリピンで会社を作る前に確認すべき2つの数字
フィリピンで外国人、または外国法人が事業を始めるとき、最初に確認すべき数字は大きく2つあります。
1つ目は、外国人が何%まで株式を持てるか。
2つ目は、その事業を行うために必要な最低資本金はいくらかです。
この2つを混同すると、事業計画が大きくずれます。たとえば、100%外資で設立できる業種でも、国内市場向けに営業する場合は一定の資本金要件がかかることがあります。逆に、資本金を十分に用意しても、法律上40%までしか外国人が持てない業種もあります。
フィリピンでは、外国人持株比率の制限は主に Foreign Investment Negative List にまとめられています。現在の基礎となっているのは、2022年に公布された第12次外国投資ネガティブリストです。
基本原則:ネガティブリストに載っていなければ100%外資も可能
まず押さえるべき基本は、禁止・制限されている業種でなければ、外国人が100%出資できる可能性があるという点です。
フィリピンは外資に対して閉鎖的な国というイメージを持たれることがありますが、実際にはすべての業種が制限されているわけではありません。IT、BPO、コンサルティング、輸出型サービス、オンライン事業、マーケティング支援、一般的なサービス業など、多くの分野では100%外資での設立が検討できます。
ただし、ここで重要なのは、持株比率の上限と最低資本金は別の論点だということです。
100%外資で設立できる業種でも、フィリピン国内市場向けに商品・サービスを販売する場合は、原則として資本金要件を満たす必要があります。一方、輸出型事業やBPOのように海外向け売上が中心の事業では、国内市場向け企業とは違う扱いになる場合があります。
国内市場向け事業の最低資本金
フィリピンで外国人が国内市場向け事業を行う場合、一般的には US$200,000以上の払込資本金 が1つの基準になります。
これは、フィリピン国内の顧客に向けてサービスや商品を提供する「domestic market enterprise」に関係する考え方です。小規模な国内市場向け企業で、払込資本金がUS$200,000未満の場合、原則としてフィリピン国民に留保される扱いになります。
ただし、一定の条件を満たす場合には、最低資本金が US$100,000 まで下がる可能性があります。
たとえば、以下のような場合です。
- 先端技術を扱う事業
- スタートアップ、またはスタートアップ支援企業として認められる事業
- 直接雇用する従業員の過半数がフィリピン人で、かつフィリピン人従業員が15名以上いる事業
そのため、小規模にセブで会社を作りたい場合でも、「外資100%で設立できるか」だけでなく、「国内市場向け事業として最低資本金を満たすか」を必ず確認する必要があります。
輸出型事業・BPO・海外向けサービス
BPO、オンライン業務代行、海外向けカスタマーサポート、Web制作、開発業務、デジタルマーケティング支援など、売上の大半が海外から発生する事業は、国内市場向け事業とは異なる設計ができます。
フィリピンの外資規制では、製品やサービスの一定割合を輸出する企業は「export enterprise」として扱われる場合があります。一般に、輸出型企業は外資100%での設立を検討しやすい分野です。
ただし、ここでも注意点があります。単に「外国人が経営する会社」だから輸出型になるわけではありません。売上の相手先、請求先、サービス提供先、契約形態、実際の業務内容を見て判断されます。
たとえば、日本企業向けのBPOセンターをセブに作り、売上の大半が日本本社または海外クライアントから発生する場合は、輸出型事業として設計しやすいです。一方、セブ在住者やフィリピン国内企業向けにサービスを売る場合は、国内市場向け事業として扱われる可能性が高くなります。
小売業:100%外資も可能だが資本金が大きい
小売業は、外国人投資家が特に注意すべき分野です。
現在、外国小売業者は一定条件を満たせばフィリピンで小売業に参入できます。ただし、最低資本金のハードルがあります。外国小売業者には 2,500万ペソ以上の払込資本金 が求められます。また、複数の実店舗を展開する場合、1店舗あたり 1,000万ペソ以上の最低投資額 が必要になる場合があります。
つまり、小売業は「外資参入できるか」だけで見ると以前より開放されていますが、小規模な個人ビジネスとして始めるには資本金要件が重くなります。
たとえば、セブで日本食材店、雑貨店、アパレルショップ、セレクトショップ、日用品販売店を始めたい場合、小売業に該当する可能性があります。この場合、単なる一般サービス業として考えるのではなく、小売規制と資本金要件を個別に確認する必要があります。
飲食業は設計によって扱いが変わる
レストラン、カフェ、バーなどの飲食業は、日本人がセブで考えやすいビジネスの1つです。
飲食業そのものがすべて外資禁止というわけではありません。ただし、事業の中身によって、小売、土地・不動産、雇用、アルコール販売、フランチャイズ、ブランド使用、ローカル許認可など、複数の論点が絡みます。
小規模な飲食店を100%外資で運営したい場合、最低資本金の問題が出やすくなります。国内の一般消費者向けに営業するため、国内市場向け事業として扱われる可能性が高いからです。
一方、フィリピン人パートナーと合弁にする、フランチャイズ契約を活用する、外国人は運営会社ではなくブランド・ノウハウ提供側に回るなど、複数の設計方法があります。
飲食業では、「外国人が何%持てるか」だけでなく、誰が営業許可を取るのか、誰が店舗契約を結ぶのか、誰が日々の運営責任を負うのかまで整理する必要があります。
不動産・土地所有:外国人は土地を所有できない
フィリピンで最も重要な制限の1つが土地所有です。
外国人個人は、原則としてフィリピンの土地を所有できません。外国人が関与する会社についても、土地を所有する会社は原則としてフィリピン資本60%以上、外国資本40%以下の構成が必要になります。
そのため、セブで不動産開発、土地保有、賃貸物件運営、ホテル用地取得などを考える場合は、外資100%の会社で土地を買うという設計は基本的にできません。
ただし、外国人でもコンドミニアムユニットを購入できる場合があります。これは土地そのものではなく、コンドミニアム法に基づく区分所有の枠組みで扱われるためです。ただし、建物全体における外国人所有比率の上限など、別の制限があります。
教育事業:学校運営は外資制限に注意
語学学校、インターナショナルスクール、専門学校、研修センターなど、教育関連ビジネスをセブで行う場合も注意が必要です。
教育機関の所有・運営には、フィリピン人資本や管理に関する制限がかかる場合があります。
特に、正式な学校として許認可を取るのか、単なる研修・コーチング・オンライン教育サービスとして行うのかによって、必要な手続きや外資規制の見方が変わります。
たとえば、日本人向けにオンライン英語コーチングを提供する会社と、フィリピン国内で認可校を運営する会社では、規制上の位置づけが大きく異なります。
広告業:外資は30%まで
広告業は、外国人持株比率が 30%まで に制限される代表的な業種です。
ここで注意したいのは、マーケティング支援やWeb制作、SNS運用、SEO支援、コンテンツ制作などがすべて広告業に該当するとは限らない点です。
実務上は、何を主たる事業として登録するかが重要になります。広告代理店として広告枠の売買や広告キャンペーンの代理業務を行うのか、Web制作会社として制作・開発を行うのか、BPOとして海外向けマーケティング業務を受託するのかで、扱いが変わる可能性があります。
セブでデジタルマーケティング会社を作る場合は、定款上の事業目的を広く書きすぎると、不要な外資規制に引っかかる可能性があります。最初の設計段階で、実際の収益モデルに合わせて慎重に事業目的を整理することが重要です。
人材紹介・リクルート業:外資は25%まで
人材紹介、職業紹介、海外雇用関連のリクルート業務は、外資制限が厳しい分野です。
ローカルまたは海外雇用のための民間リクルート業は、外国資本 25%まで とされています。
そのため、日本人向けにフィリピン人材を紹介する、人材派遣を行う、海外就職を仲介する、フィリピン人を日本企業に紹介する、といった事業では注意が必要です。
一方で、採用コンサルティング、求人広告メディア、研修サービス、BPO型採用支援など、事業モデルによっては直接的な人材紹介業とは異なる設計も考えられます。ただし、人材関連事業は許認可と外資規制が複雑になりやすいため、安易に100%外資で始めるべきではありません。
建設業・インフラ関連:40%制限に注意
建設業やインフラ関連も、外資制限が関係しやすい分野です。
特に、政府インフラプロジェクト、公共事業、天然資源の開発、公共ユーティリティに関係する事業では、外国資本が 40%まで に制限されるケースがあります。
一方で、一般的な内装工事、設計補助、建築関連BPO、CADオペレーション、海外向け設計支援などは、事業内容によって別の扱いになる可能性があります。
重要なのは、「建設っぽい仕事」だから一律に40%制限というわけではなく、実際にフィリピン国内で建設契約を請けるのか、政府案件に関与するのか、公共インフラに関係するのか、単なる支援業務なのかを分けて考えることです。
メディア・マスメディア:原則として外資不可
マスメディアは、フィリピンで最も外資規制が厳しい分野の1つです。
新聞、テレビ、ラジオ、伝統的なメディア運営を外国人が直接所有することは難しいと考えるべきです。
ただし、Webメディア、ブログ、オンライン情報サイト、SNS運営、動画制作などは、事業内容によって判断が分かれる可能性があります。特に、セブ情報サイト、観光メディア、不動産メディア、留学メディアなどを運営する場合、単なるインターネットビジネスなのか、マスメディア規制に近い活動なのかを確認する必要があります。
セキュリティ業・探偵業:外資不可
警備会社、探偵業、セキュリティガード派遣などは、外国人に開放されていない分野です。
セブでは、コンドミニアム、商業施設、学校、BPOオフィスなどでセキュリティ需要が大きいですが、外国人が直接警備会社を所有・運営する設計は難しいと考えるべきです。
ただし、セキュリティシステムの販売、監視カメラ設置、ITセキュリティ、サイバーセキュリティ、リスクコンサルティングなどは、物理的な警備業とは別の扱いになる可能性があります。
業種別の目安表
| 業種・事業内容 | 外国人持株比率の目安 | 最低資本金・注意点 |
|---|---|---|
| BPO・海外向け業務代行 | 100%も検討可 | 輸出型として設計できるかが重要 |
| IT開発・Web制作・SaaS | 100%も検討可 | 国内市場向けならUS$200,000基準に注意 |
| コンサルティング | 100%も検討可 | 業務内容が専門職規制に触れないか確認 |
| 国内向け一般サービス業 | 100%も検討可 | 原則US$200,000、条件次第でUS$100,000 |
| 小売業 | 100%も検討可 | 払込資本金2,500万ペソ、複数店舗は1店舗あたり1,000万ペソに注意 |
| 飲食業 | 設計次第 | 国内市場向け資本金、営業許可、パートナー設計が重要 |
| 不動産土地保有 | 原則40%まで | 土地所有会社はフィリピン資本60%以上が基本 |
| コンドミニアム購入 | 個人でも可能な場合あり | 建物全体の外国人所有比率上限に注意 |
| 広告業 | 30%まで | Web制作・マーケ支援との線引きが重要 |
| 人材紹介・リクルート | 25%まで | 許認可と事業内容の確認が必須 |
| 建設・公共インフラ関連 | 40%までのケースあり | 政府案件・公共事業・天然資源関連は要注意 |
| 教育機関運営 | 制限あり | 認可校か研修サービスかで扱いが変わる |
| マスメディア | 原則外資不可 | インターネット事業との区別が重要 |
| 警備・探偵業 | 外資不可 | ITセキュリティとは別に考える |
セブで起業する日本人が特に注意すべき分野
セブで日本人が事業を始める場合、実務上よく出てくるのは以下の分野です。
- BPO
- Web制作
- 留学関連サービス
- 不動産紹介
- 飲食店
- 小売店
- コンサルティング
- 人材紹介
- 観光・旅行関連
- 親子留学・教育関連サービス
この中で、比較的100%外資で設計しやすいのは、BPO、海外向けWeb制作、IT開発、コンサルティング、海外クライアント向けサービスです。
一方で、注意が必要なのは、小売、飲食、不動産、人材紹介、教育機関、メディアです。これらは、日本人の感覚では普通のスモールビジネスに見えても、フィリピン法上は外資規制や最低資本金が関係する可能性があります。
「名義借り」は絶対に避けるべき
外資規制がある業種でよく問題になるのが、フィリピン人の名義を借りて実質的に外国人が所有・運営する形です。
これは非常に危険です。書類上はフィリピン人が株主でも、実質的に外国人が資金を出し、経営を支配し、利益を受け取っている場合、法的なリスクが大きくなります。
また、トラブルになったときに外国人側が権利を主張しにくくなることもあります。株式、土地、店舗、銀行口座、営業許可、契約名義が他人名義になっている場合、事業がうまくいってから揉めるケースも少なくありません。
セブで長く事業を行うなら、最初から合法的なストラクチャーを作るべきです。外資100%でできる事業にするのか、正規の合弁にするのか、ライセンス契約にするのか、業務委託型にするのかを、事業内容に合わせて設計する必要があります。
最低資本金は「会社設立費用」ではない
最低資本金を考えるときに誤解しやすいのが、資本金は単なる設立費用ではないという点です。
たとえば、US$200,000の資本金が必要とされる場合、それは弁護士費用や登記費用として消えるお金ではありません。会社の資本として払い込まれ、事業運営に使われるお金です。
ただし、実際にどのように払い込むか、どのタイミングで必要か、銀行証明や送金証明が必要か、SECやDTIにどのように説明するかは、事業形態によって異なります。
特に小売業では、払込資本金をフィリピン国内で維持することが求められます。
最初に決めるべきは「業種名」ではなく「収益の流れ」
外資規制を考えるとき、多くの人は「この業種は何%まで持てるのか」と考えます。
しかし、実務上は業種名だけでは判断できません。重要なのは、以下のような実態です。
- 誰に売るのか
- 売上はフィリピン国内から発生するのか
- 海外クライアント向けなのか
- 商品を販売するのか、サービスを提供するのか
- 人材を紹介するのか、業務を受託するのか
- 店舗を持つのか、オンライン完結なのか
- 土地や不動産を所有するのか
- 許認可が必要な分野か
たとえば、同じ「教育」でも、正式な学校運営、語学学校、オンライン英語コーチング、留学相談、教材販売では規制の見方が変わります。
同じ「不動産」でも、土地所有、不動産開発、賃貸管理、不動産メディア、紹介業、投資コンサルティングでは必要な確認事項が違います。
セブでおすすめしやすい事業設計
日本人がセブで起業する場合、外資規制と最低資本金の観点から見ると、比較的設計しやすいのは以下のようなモデルです。
1つ目は、海外向けBPOモデルです。
日本企業や海外企業向けに、事務作業、カスタマーサポート、Web更新、デザイン、動画編集、経理補助、採用補助などを提供する形です。
2つ目は、IT・Web制作・デジタル支援モデルです。
クライアントが海外にいる場合、輸出型サービスとして設計しやすくなります。
3つ目は、コンサルティング・アドバイザリー型です。
ただし、弁護士、会計士、建築士などの専門職規制に触れる業務は避ける必要があります。
4つ目は、フィリピン国内ではなく日本市場に売るモデルです。
セブに拠点を置きながら、日本の顧客にサービスを提供する形であれば、国内市場向け事業より設計しやすい場合があります。
まとめ:外資比率と最低資本金はセットで確認する
フィリピンで事業を始めるときは、まず外国人持株比率を確認する必要があります。
ただし、それだけでは不十分です。100%外資で可能な業種でも、国内市場向け事業であればUS$200,000の資本金基準が問題になることがあります。条件を満たせばUS$100,000で認められる可能性もありますが、先端技術、スタートアップ認定、フィリピン人雇用などの条件を確認する必要があります。
小売業では、2,500万ペソの払込資本金と、複数店舗の場合の1店舗あたり1,000万ペソの投資要件が重要になります。
一方で、BPO、IT、海外向けサービス、輸出型ビジネスは、セブで日本人が比較的取り組みやすい分野です。特に、日本企業向けにセブの人材とコスト構造を活用するモデルは、外資規制の面でも事業性の面でも検討しやすいと言えます。
セブで会社を作るときは、「この業種は何%まで外資可能か」だけでなく、「誰に売るのか」「売上はどこから発生するのか」「資本金はいくら必要か」「許認可は必要か」まで整理することが重要です。
外資比率と最低資本金を最初に正しく設計できれば、後から無理な名義借りや不安定なパートナー構成に頼る必要がなくなります。セブで長期的に事業を育てるなら、最初の法人設計こそが最も重要な投資になります。
