セブで法人を作るときに、最初に理解すべきこと
セブで会社を作る場合、手続きの中心になるのは「セブ市役所」ではなく、まずフィリピン全国共通の法人登録機関である SEC、つまり Securities and Exchange Commission です。
セブで事業をする会社であっても、法人そのものは SEC に登録します。その後、実際に事業を行う住所を管轄する市役所、バランガイ、BIR、必要に応じて SSS・PhilHealth・Pag-IBIG などで登録を進めます。
つまり、全体の流れは次のようになります。
SECで法人登録をする
↓
会社の銀行口座や社内書類を整える
↓
バランガイクリアランスを取得する
↓
市役所で Mayor's Permit を取得する
↓
BIRで税務登録をする
↓
帳簿、インボイス、領収書、給与関連登録を整える
この順番を理解していないと、「SEC登録が終わったから営業できる」と誤解しやすくなります。SEC登録はあくまで法人の誕生であり、実際にビジネスを開始するには、ローカル政府と税務署での登録が必要です。
SEC登録とは何か
SEC登録は、フィリピンで法人やパートナーシップを正式に設立するための手続きです。
日本でいう会社設立登記に近い位置づけで、SECから Certificate of Incorporation が発行されることで、法人としての存在が認められます。
セブで日本人が事業を始める場合でも、法人登録そのものはフィリピン全体の制度に従います。セブ市、マンダウエ市、ラプラプ市など、実際のオフィス所在地によって後続の市役所手続きは変わりますが、SEC登録の基本は全国共通です。
現在は SEC eSPARC というオンラインシステムを使って申請する流れが中心です。SECのeSPARCでは、OneSEC、Regular Processing、ZERO Processing などの登録方法が用意されており、会社形態や内容によって使い分けます。
シンプルな国内法人であればオンラインでかなり進めやすくなっていますが、外国人株主が入る場合、外資規制のある業種、複雑な株主構成、特殊な事業目的がある場合は、専門家に確認しながら進める方が安全です。
まず決めるべき会社の基本事項
SEC申請に入る前に、以下の項目を決めておく必要があります。
会社名
事業目的
会社住所
株主構成
取締役・役員構成
資本金
外国人持株比率
事業内容が外資規制に該当するか
将来的に従業員を雇用するか
実店舗・オフィスを持つか
オンライン事業か、現地営業を行うか
特に重要なのは、外国人持株比率と事業内容です。
フィリピンでは、業種によって外国人が100%保有できるものと、フィリピン人の持株比率が必要になるものがあります。たとえば、単純な輸出型サービス、IT関連、コンサルティング、BPO的な業務などは比較的設計しやすい一方、小売、土地所有、教育、特定の専門サービスなどは注意が必要です。
セブで日本人向けサービス、留学関連、飲食、店舗、ツアー、不動産、教育、採用、コンサルティングなどを行う場合は、事業目的の書き方によって後の許認可や外資規制に影響することがあります。
会社名の確認と予約
最初の実務ステップは、会社名の確認です。
SEC eSPARC上で希望する会社名を入力し、既存会社と重複していないか、紛らわしくないかを確認します。
会社名は、単に空いていればよいわけではありません。既存会社と似すぎている名称、政府機関と誤解される名称、許認可が必要な言葉を含む名称、業種と合わない名称などは拒否されることがあります。
たとえば、Bank、Insurance、University、Foundation、Investment などの言葉は、内容によって追加確認や別の許認可が必要になる場合があります。
セブで事業をする場合でも、会社名は全国で確認されます。Cebuという地名を入れることは可能ですが、すでに似た名前の会社がある場合は承認されないこともあります。
Articles of Incorporation と By-Laws を作成する
会社名が使える見込みになったら、次に Articles of Incorporation と By-Laws を準備します。
Articles of Incorporation は、会社の基本情報を定める書類です。会社名、住所、事業目的、資本金、株主、取締役、株式構成などが記載されます。
By-Laws は、会社内部の運営ルールです。株主総会、取締役会、役員の権限、議決方法、株式の扱い、会計年度などを定めます。
この2つは、将来の会社運営にも関わる重要書類です。テンプレートだけで作ることもできますが、日本人がセブで会社を設立する場合は、以下の点に注意が必要です。
事業目的が広すぎないか
将来やりたい事業が含まれているか
外資規制に触れる表現になっていないか
株主間の関係が実態に合っているか
名義貸しのような危険な構成になっていないか
会社住所が実際に使える住所か
BIRや市役所で説明できる事業内容か
特に、フィリピン人パートナーを入れる場合は慎重に考える必要があります。形式上だけフィリピン人株主を入れる設計は、後で大きなトラブルにつながる可能性があります。
SEC eSPARCでオンライン申請する
書類の準備ができたら、SEC eSPARCを通じて申請します。
現在のSEC登録では、オンライン上で会社情報を入力し、必要書類を提出し、SEC側の審査を受ける流れが一般的です。
シンプルな会社であれば OneSEC や ZERO Processing の対象になる場合があります。一方、外国人株主がいる、特殊な事業目的がある、定款内容を細かく調整したい、通常のテンプレートに収まらない場合は Regular Processing になることがあります。
申請後、SECから修正依頼が来ることもあります。よくある修正ポイントは次の通りです。
会社名が既存会社に似ている
事業目的の表現が不明確
資本金や株式構成に不備がある
住所表記が不十分
役員情報に不一致がある
署名やIDに不備がある
外国人株主関連の確認が必要
SEC登録は、単に入力して終わりではなく、審査対応が必要になることを前提にしておくとよいです。
Certificate of Incorporation を取得する
SECの審査が完了すると、Certificate of Incorporation が発行されます。
この時点で、会社は法人として成立します。ただし、ここで安心して営業を始めてはいけません。
SEC登録後には、次のような手続きが残っています。
会社の正式書類の保管
株主・役員関連の社内記録作成
銀行口座開設
バランガイクリアランス取得
Mayor's Permit 取得
BIR登録
帳簿登録
インボイス・領収書の準備
従業員を雇う場合の各種雇用関連登録
特にBIR登録を後回しにすると、税務上のペナルティや営業上の問題につながる可能性があります。
セブでのバランガイクリアランス取得
SEC登録後、実際に事業を行う場所のバランガイで Barangay Business Clearance を取得します。
バランガイとは、フィリピンの最小行政単位です。セブ市内でも、IT Park周辺、ラホグ、マボロ、バニラッド、キャピトル、マンダウエ、ラプラプなど、所在地によって管轄バランガイが変わります。
通常、以下のような書類が求められます。
SEC登録書類
賃貸契約書
会社住所の証明
代表者または担当者のID
申請フォーム
支払い領収書
場合によっては写真やロケーションスケッチ
コンドミニアム、バーチャルオフィス、シェアオフィス、自宅住所を使う場合は、その住所で事業登録が可能か事前に確認する必要があります。
特にセブでは、実際の営業場所、看板の有無、来客の有無、従業員の勤務場所によって、市役所やバランガイの判断が変わることがあります。
Mayor's Permit を取得する
バランガイクリアランスの次に、市役所で Mayor's Permit を取得します。
Mayor's Permit は、セブで実際に事業を行うための営業許可のような位置づけです。セブ市、マンダウエ市、ラプラプ市、タリサイ市など、所在地のLGUで申請します。
一般的には、次のような書類が必要になります。
SEC Certificate of Incorporation
Articles of Incorporation
By-Laws
Barangay Business Clearance
賃貸契約書
Occupancy Permit または建物関連書類
Fire Safety Inspection Certificate
Sanitary Permit
会社代表者のID
ロケーションマップ
申請フォーム
支払い証明
飲食店、学校、宿泊施設、医療関連、旅行業、不動産、採用、人材紹介などは、追加許認可が必要になる場合があります。
たとえば、語学学校、保育、教育サービス、ツアー、レストラン、カフェ、宿泊施設などは、単純なオフィス業より確認項目が増える傾向があります。
BIR登録とは何か
BIRは Bureau of Internal Revenue、つまりフィリピンの税務当局です。
SECで法人ができても、BIRに登録しなければ、正式に税務申告を行うことができません。請求書や領収書の発行、帳簿管理、法人税、源泉税、VATまたはPercentage Taxなどの登録もBIRで行います。
法人の場合、通常は BIR Form 1903 を使って登録します。
BIR登録で重要なのは、どのRDOに登録するかです。RDOとは Revenue District Office のことで、会社の事業住所を管轄する税務署です。
セブ市にオフィスがある会社と、マンダウエ市やラプラプ市にある会社では、管轄RDOが異なる場合があります。住所選びは、単に家賃や立地だけでなく、BIRや市役所手続きにも影響します。
BIR登録で準備する主な書類
BIR登録では、一般的に以下のような書類を準備します。
BIR Form 1903
SEC Certificate of Incorporation
Articles of Incorporation
By-Laws
Mayor's Permit または申請中であることを示す書類
賃貸契約書
代表者または担当者のID
会社住所を証明する書類
Tax Type Questionnaire
帳簿登録関連書類
インボイスまたは領収書関連の申請書類
実際に求められる書類はRDOや申請方法によって変わることがあります。オンライン提出、NewBizReg、ORUS、Philippine Business Hub、RDO窓口など、使うルートによって実務の流れが異なる場合があります。
そのため、セブで会社を作る場合は、事前に管轄RDOの最新運用を確認することが大切です。
BIR登録で決まる税目
BIR登録では、会社がどの税目の対象になるかが決まります。
主な税目には次のようなものがあります。
法人所得税
VAT または Percentage Tax
Expanded Withholding Tax
Withholding Tax on Compensation
Final Withholding Tax
Documentary Stamp Tax
その他、業種に応じた税目
特に注意したいのは、VAT登録の有無です。
年間売上、事業内容、取引先、請求書の出し方によって、VAT登録が必要になるか、Percentage Taxでよいかが変わります。B2B取引が多い会社、外資系企業と取引する会社、フィリピン国内企業に請求する会社は、VAT登録の有無が取引条件に影響することがあります。
また、従業員を雇う場合は給与源泉税、外注先に支払いをする場合はExpanded Withholding Taxが関係することがあります。
帳簿登録とインボイス準備
BIR登録後は、帳簿とインボイス・領収書の準備が必要です。
フィリピンでは、会社は会計帳簿を登録し、正式なインボイスまたは領収書を使って取引を記録します。
帳簿には、手書き帳簿、ルーズリーフ、会計システムなどの形があります。小規模な会社であっても、BIRに登録された形式で帳簿を管理する必要があります。
また、請求書や領収書についても、BIRのルールに従って準備します。以前のような単純なOfficial Receipt中心の運用から、Invoice重視の制度変更も進んでいるため、会計士に確認しながら設計する方が安全です。
セブで日本人向けサービスを行う会社の場合、日本人顧客に日本語で請求書を出したいケースもあります。しかし、税務上はフィリピンのBIRルールに合った正式書類が必要です。日本語の見積書や請求案内と、BIR対応のInvoiceは分けて考えるとよいです。
従業員を雇う場合の追加登録
会社を設立して従業員を雇う場合は、BIRだけでなく、以下の登録も必要になります。
SSS
PhilHealth
Pag-IBIG
DOLE関連の確認
給与計算体制
雇用契約書
就業規則
13th month pay の準備
源泉税処理
フィリピンでは、従業員を雇うと社会保険、健康保険、住宅基金、給与源泉税、13ヶ月給与などの義務が発生します。
セブで現地スタッフを雇う場合、日本と同じ感覚で「月給だけ払えばよい」と考えると危険です。雇用契約、試用期間、残業、休日、社会保険、退職時対応など、最初から整えておく必要があります。
セブで法人設立するときの実務スケジュール
一般的な流れとしては、以下のようなスケジュール感になります。
1週目:事業内容、株主構成、会社名、住所の検討
2週目:SEC書類準備、会社名確認、eSPARC申請
3週目:SEC審査対応、Certificate of Incorporation取得
4週目:バランガイ、市役所、Mayor's Permit手続き
5週目:BIR登録、帳簿登録、インボイス準備
6週目以降:銀行口座、雇用登録、会計運用開始
スムーズに進めば1〜2ヶ月程度で基本形を整えられることもありますが、実際には住所、業種、書類不備、外国人株主、許認可、銀行口座開設で時間がかかることがあります。
特にセブでは、オフィス住所の確定が遅れると、バランガイ、市役所、BIRの手続きが進みません。法人設立では、会社名や株主構成だけでなく、「どこを正式住所にするか」が非常に重要です。
よくある失敗1:SEC登録だけで営業を始めてしまう
最も多い失敗は、SEC登録が終わった時点で「会社設立が完了した」と思ってしまうことです。
SEC登録は法人の設立です。しかし、実際の営業には、市役所のPermit、BIR登録、帳簿、インボイスなどが必要です。
特に、顧客から正式な領収書やインボイスを求められる場合、BIR登録が完了していないと対応できません。法人名で契約を取りたい場合も、税務登録が整っていないと信用面で問題になります。
よくある失敗2:住所を安易に決める
セブでは、住所選びが法人設立後の実務に大きく影響します。
たとえば、IT Park周辺のオフィス、マンダウエの商業スペース、ラプラプのリゾート関連物件、コンドミニアムの一室、バーチャルオフィスでは、手続きのしやすさが変わります。
住所を決めるときは、以下を確認すべきです。
その住所で法人登記できるか
賃貸契約書に会社名を入れられるか
Mayor's Permitを取得できる用途か
BIR登録に使えるか
看板や来客の有無に問題がないか
オフィスとして実態を説明できるか
安いからという理由だけで住所を選ぶと、後で市役所やBIRで止まることがあります。
よくある失敗3:フィリピン人パートナーを軽く考える
外資規制がある事業では、フィリピン人株主やパートナーが必要になる場合があります。
しかし、信頼関係が十分でない相手を名義上の株主にすると、後で会社の支配権、銀行口座、配当、資産、契約、撤退時の手続きで問題になることがあります。
法人設立前に、株主間契約、役割分担、資金負担、意思決定方法、撤退時の処理を明確にしておくべきです。
「とりあえず名前だけ借りる」という考え方は非常に危険です。
よくある失敗4:会計士を後から探す
BIR登録後は、毎月・四半期・年次の申告が発生します。
事業がまだ小さいからといって、会計を後回しにすると、未申告、誤申告、ペナルティ、帳簿不備につながります。
法人を作る段階で、少なくとも以下の体制は決めておくべきです。
月次記帳を誰が行うか
BIR申告を誰が行うか
給与計算を誰が行うか
インボイスを誰が管理するか
銀行口座と現金をどう管理するか
日本側の会計や税務とどうつなぐか
日本法人や日本居住者との関係がある場合、日本側の税務も無視できません。フィリピン法人だけで完結すると考えず、日本側の税理士とも連携した方が安全です。
セブ法人設立に向いている事業
セブで法人を作るメリットが出やすいのは、現地に実態が必要な事業です。
たとえば、次のような事業です。
セブ現地でスタッフを雇う事業
留学、教育、サポート事業
IT、Web、BPO、クリエイティブ制作
日本人向け生活サポート
不動産関連サービス
観光、現地手配、送迎関連
飲食、店舗、サービス業
現地法人とのB2B取引
フィリピン国内で請求書を発行する事業
一方、単に海外に会社が欲しいだけの場合や、実態のない節税目的の場合は、セブ法人設立が必ずしも適しているとは限りません。
法人を作る前に、「なぜ個人事業ではなく法人なのか」「なぜ日本法人ではなくフィリピン法人なのか」「なぜマニラではなくセブなのか」を整理しておくことが大切です。
セブで法人を作る前のチェックリスト
法人設立前には、最低限以下を確認しましょう。
事業内容は外資規制に該当しないか
外国人持株比率は問題ないか
会社住所はSEC、LGU、BIRで使えるか
賃貸契約書を法人名で出せるか
Mayor's Permitが取れる業種か
BIR登録後の税目を理解しているか
会計士を確保しているか
従業員を雇う予定があるか
銀行口座開設に必要な書類を確認しているか
日本側の税務リスクを確認しているか
フィリピン人パートナーとの関係を文書化しているか
撤退時や株式譲渡時のルールを考えているか
このチェックを飛ばして法人を作ると、設立後に修正が難しくなることがあります。
まとめ:セブ法人設立は「SEC登録後」が本番
セブで法人を設立する流れは、SEC登録から始まります。
しかし、実務上はSEC登録だけでは終わりません。バランガイ、市役所、BIR、帳簿、インボイス、社会保険、雇用、会計運用まで整えて、初めて安心して事業を開始できます。
特に日本人がセブで会社を作る場合は、外資規制、住所、フィリピン人パートナー、BIR登録、会計運用が重要です。
法人設立は、書類を出す作業ではなく、事業を長く続けるための土台作りです。
セブで本気で事業を始めるなら、最初の段階で会社の形、税務、許認可、会計、雇用まで含めて設計することが大切です。
